ヤフーニュースで『「成功のためにどんどん失敗せよ」「人のマネをしてはいけない」この2つの教えがどちらも誤りである理由』という記事を読みました。
米コロンビア大学のビジネススクール教授、シーナ・アイエンガー教授の教えだそうです。
内容は、簡単にまとめると・・・
・失敗から学べることもあるけど、失敗は痛みを伴い、積極的に求めるものではない
・「今日の売り上げ」を上げるためには、失敗よりも成功から学んだ方が早いし安全である
・他者の成功事例を模倣してみることで、飛躍するケースは多い
・実験的チャレンジをする際も、手当たり次第の試行錯誤をするのは誤りで、成功確率の高い効率的な手段を用いるべき
・模倣に罪悪感を抱く必要は無く、どんどん模倣すべき
・丸パクリか、まねしないか、の極端な考えではなく、成功事例のうち、抽出したエッセンスのみを模倣する「部分的模倣」が優れている
簡単にまとめるつもりが、長くなってしまった。まぁ記事自体が短くないからですけど。
こうしてまとめを見てみると、というか、まずこの教授さんの肩書きに注目ですね。
ビジネススクールの教員です。つまり、まとめにも書きましたが、「実験的価値」よりも「今日の売り上げ」の方が大事なビジネスの世界の人です。
ここを、見逃すと、充実した議論にはならないのですが、
彼女は「研究者の実験」とか「一般的な実験」までに広げて論を言っている様に感じて、「おぉ、そこまで手を広げたいのか」と意外に思いました。
ただ、ビジネススクールの生徒さんたちに対して、「一般常識を取り払って、フラットな状態で説明を聞いて欲しい」という動機によって、そういう説明の仕方をしている可能性は高いので、
「失敗ではなく成功を模倣せよ」というのはやはり「ビジネスの世界では」明らかにそうですね、というカギ括弧付きで受け取った方が良いと思います。
ビジネスの世界が、なぜ模倣が強いかというと、基本的にある確率で成功しつづけないと、経営の維持からして不可能になるからです。
成功7割、失敗3割では、おそらく会社が潰れます。失敗は多分1~2割以内に押さえなければ、維持できないでしょう。
なので、その土俵においては、「模倣が早くて安全で正しい」は正解だと思います。
ただ、この点に問題もあって、それは何かというと
「このやり方では」「既知の成功しかできない」という所です。
既知の成功だけで、問題なく世界が回るという仮定の下であれば、経済成長とか、必要ないでしょう。
同じ事をずうっと永遠に繰り返せばいいのですから。
でも実際は、同じ事をずうっとしていて上手くいく試しがありません。これは明らかにひとつの失敗ルートです。
だから、ある意味仕方なく「今までやったことない事」「やったら成功するか失敗するかわからないからやるっきゃない事」に「チャレンジ」しなくてはいけないという状況は、常に存在しているのです。
ただ、会社が今日の売り上げを上げなければいけないように、すべての構成員が、「未知の探求のためのチャレンジ」を実際にする必要があるわけではありません。
「成功した他者を模倣して、実際に質の良い商品を作る」こういうことを相も変わらずやる、という必要性は常にあります。生きる(経済を回す)ために。
そういう係の人は、この教授さんの言うとおり、部分的模倣(戦略の模倣)をすれば、効率は上がるでしょう。
しかし、それで十分ならば、誰も苦労はしません。再現性の効力が常に担保されている世界は、存在しないからです。
世界は常に状況が変わっていて、その度に、「やらなければいけないチャレンジ」も変わってきます。
当然、「今までやったことがないけど、やる以外選択肢がないチャレンジ」もあるのです。
そういうチャレンジをして、ある程度損害を織り込んで、成果を出した一部の人がいるからこそ、全体として経済が回るよね、という結果になるのです。これは分業ですね。
この教授さんの想定している世界とは、
「この世に起こり得る成功は、すべて過去の成功のパーツの組み合わせで成り立っている」
という前提があるようですね。
人が変われば、成功の定義も変わるので、ちょっと私の見ている世界とは違うなぁと思いました。気候とかが変わっても成功の条件は変わりますよ。
ただ、ビジネスの世界では、「面白そうな実験をする」だけの余力を持つことが非常に難しいので、「とりあえず今日の売り上げは確保して、未来に投資するための余力をひねり出すしか無い」
って戦略しか選択肢がない、ということは私もそう思います。
ここでもやっぱり幅を効かせてくるのが、「状況把握」と「バランス感覚」のようです。