A diary 9/16その②

例えばある農村があるとして。

 

最初はみんなで労働量をできるだけ等分して、収穫した農作物を等分していたとする。

 

そんなに豊作でもなく、なんとか全員空腹に耐えつつ生きていける水準です。

 

ここで、誰かが鉄のクワをどこかから拾ってきました。

 

鉄製のクワは、村にとっては新しいテクノロジーです。

 

村のリーダーは言いました。「鉄のクワを量産して使おう」。

 

しかし、村の労働力はカツカツで、新しい分野へのリソースが足りません。

 

じゃあこうしよう「一部の村人の食い扶持を減らして、その剰余分の資本を鉄クワ生産に注入しよう」

 

一部の村人の報酬を農産物100から50に減らしました。

 

貧しくなった村人は飢餓状態で、一人前の労働を強いられ、力尽きる者もいました。

 

「また一人倒れました。これで大丈夫なんでしょうか?」

 

リーダーは言いました。「鉄製の農具が作れるようになれば、村の生産性が上がり、農具自体を売ることもできるので、村の収益は確実に上がる。それまで何人か失ってもしかたの無いことだ。この技術は村にとって数人の命の損害を差し引いてもリターンがあるからな」

 

計画を続行した村では、報酬を減らされる人が常に一定数選ばれていました。

 

犠牲者として選ばれた者達は、こう思っていました。「今は辛いけど、リーダーの言うとおり鉄クワが作れれば状況はよくなるはずだ。村全体のために、がんばって耐えよう」

 

犠牲者たちはがんばりましたが、この後もバタバタと倒れていきました。

 

リーダー「まずいな、これでは資本の循環がもたない・・・もっと犠牲者を増やさなければいけないな」

 

リーダーは考えました。そうだ、隣の村の連中を犠牲者にしよう。そうすれば我々は無傷で住む。

 

外交のため、隣の村に現れたリーダー一行は、ある衣装を身につけていました。

 

その衣装とは、隣村の独自のユニークな民族衣装でした。

 

リーダー「隣村のみなさんこんにちは。我々は仲間ですよ、会えてうれしいです」

 

隣村の人間は思いました。「おぉ、この衣装は我々と同じだ。近くに仲間がいるとは知らなかった」

 

2つの村は良好な関係を結び、農作業で連携することを約束しました。

 

リーダー「よし、これでいい。ただし、鉄製の農具のことは、彼らには言うなよ」

 

部下「なぜですか?」

 

リーダー「アイディアを渡して、我々が不利な競争に巻き込まれたら困るだろう。彼らには常に我々よりも技術的に劣っていてもらおう」

 

部下「なるほど」

 

リーダーは「人手が足りないので、助けて欲しい」と隣村にお願いして、何人かの労働力を派遣してもらいました。

 

リーダー「助力に感謝します。ところで、この村ではこのような報酬になっています」

 

隣村人「これはかなり少ないね、この村ではみんなこれくらいで生活しているのかい?」

 

リーダー「そうなんです、私たちはギリギリの生活をしていたもので、いや、助かります」

 

リーダーの狙い通り、隣町の労働者を犠牲にして、鉄クワ生産の資金を集めることができました。

 

部下「これで問題が解決ですね。隣町の人には悪いことをしましたが」

 

リーダー「攻め入って、力でねじ伏せて、奴隷にしてもよかったのだが、それよりも私のやり方の方が旨かっただろう」

 

部下「そうですね、争いは起こっていないし」

 

リーダー「内部の人間でも、外部の人間でも、鉄クワを作るためには犠牲者を出すことは確定しているんだ。であるならば『外部との戦争』で労働力を損耗させるより、いったん内部に引き入れてからの『善意の献身』を作り出した方が効率がいいだろう」

 

部下「なるほど。無理を通すにしても、やり方を工夫した方が良いってことですね」

 

リーダー「隣村の連中は、我々のことを仲間だと思っているだろう。実際は、私は、彼らのことはどうでもよくて、鉄クワが作れれば何でも良いんだけどな」

 

部下「リーダーは非情ですけど、合理的ですね」

 

リーダー「合理的であることが強いということだからな」

 

村はその後も、新しいテクノロジーを開発しては、富を獲得していきました

 

おわり

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ここまで書いて、私はこう思いました。

 

そもそも鉄クワなんてなくても、幸せに生活することは可能だったんじゃないでしょうか。

 

あるいは、隣村と等身大の友人になることも可能だったのでは?

 

何かを恐れ、何かを求めたら、私も合理性を突き詰め、あらゆる犠牲を払うかも知れませんが、私は「何か」を未だ知りません。

 

相手の立場を想像はできますが、結局、「なるようにしかならない」という面はあるのだろうと思います。