勇気の正体

とある国のとある戦国時代-

 

武将「我らの軍は本隊と分断されたか」

 

見習い軍師「まずいです、敵に囲まれつつあります!このままでは全滅です!」

 

武将「・・・あそこだな」

 

見習い軍師「えっ」

 

武将「3時方向に突撃するぞ!」

 

見習い軍師「我が隊の規模では、無茶です!死にに行くようなものです!」

 

武将「そういう問題ではない。あそこを突いて本隊と合流できれば形勢逆転だ」

 

見習い軍師「しかし・・・成功の可能性はほとんど・・・」

 

武将「皆の者行くぞ!この局面に全存在を賭けて敵を突き破れ!」

 

兵隊たち「おう!!!」

 

見習い軍師「我々の攻撃により敵軍が分断され、形勢が逆転しました!」

 

武将「上手くいったようだな」

 

見習い軍師「助かった・・・」

 

武将「ふぅ」

 

見習い軍師「すみませんでした!あの場面で、正直、私は弱気になってしまいました」

 

武将「危ない場面だったな」

 

見習い軍師「あなたが持っているような勇気は、どうすれば得られるのでしょうか?」

 

武将「ふむ・・・お前はあの時、『悪い結果になったらどうしよう』と考えたな?」

 

見習い軍師「はい、敗北は死ですし、それは避けなければ勝てません・・・」

 

武将「はっきり言って、負けようが勝とうが、そんなことはどうでもいいのだ」

 

見習い軍師「えっ!負けても良いと思って戦っているのですか?」

 

武将「『負けてもいい』ではなく、『勝ち負けの結果に言及していない』のだ」

 

見習い軍師「言及していない・・・?」

 

武将「さっき、私は3時方向に突撃して敵隊の横っ腹を突き破る命令を出したよな?」

 

見習い軍師「はい」

 

武将「あの場面で、最も重要なことは何だと思う?」

 

見習い軍師「それは・・・突撃を成功させて、本隊と合流することです」

 

武将「違う。最も重要なことは、3時方向に突撃することなんだよ」

 

見習い軍師「・・・」

 

武将「突撃の判断については、お前はどう思う?」

 

見習い軍師「もし成功するのであれば、非常に強い一手だと思います」

 

武将「最も大事なのは、『強い一手』に、己のすべての力を集中して注ぎ込むことだと言っている」

 

見習い軍師「集中する・・・そうか、それが『結果に言及しない』ということなんですね!」

 

武将「その通り。未来の結果について、悲観をする必要もなければ、楽観もする必要もないのだ」

 

見習い軍師「でも、どうしても未来に対して印象を持ってしまいます」

 

武将「それでは作戦の成功確率が下がるな。悲観すれば足がすくみ逃げ出すし、楽観すれば上手くいかなかった時に絶望して足が止まるだろう」

 

見習い軍師「成功確率ですか?未来の結果には言及しないんじゃ・・・?」

 

武将「成功確率について考えるのは、『行動を起こす前』だ。説明が足りなかったな」

 

見習い軍師「ということは、行動を起こす前には未来の可能性について良く考え、行動を起こす際には結果には言及しない、ということですね?」

 

武将「まぁそうだな」

 

見習い軍師「私は、そこまで自己をコントロールできません・・・今は」

 

武将「それはできた方がいいな。このことについて理解が深まれば、できるようになる」

 

見習い軍師「理解というと?」

 

武将「頭の中で、空を飛ぶ鷹の目で、私達を観てみろ」

 

見習い軍師「・・・はい」

 

武将「その視点で見て、戦場で最も強い行動とは、どのような行動だと思う?」

 

見習い軍師「最も強い行動・・・『どんな障害があろうと、長い期間、強い働きかけをする行動』でしょうか?」

 

武将「そう、最も強いということは、非常にシンプルだ。答えはシンプルなのに、実際にそれができる奴はこの世にほんの一握りしかいない」

 

見習い軍師「実際には、怯え、戸惑い、断続的な不安定な働きかけになってしまいます」

 

武将「そう、それが弱さだ。だからこそ、『強い行動を維持し続ける』ことが戦いにおいては有利になるのだ」

 

見習い軍師「わかりました!その理想的な強さを実現するための手段が・・・」

 

武将「『行動を起こす前には未来の可能性について良く考え、行動を起こす際には結果には言及せず、行動そのものに集中する』だ」

 

見習い軍師「・・・難しいですね」

 

武将「人間の身体が、それだけ扱いにくい代物だということだ。得物が使いにくくても、自分にはそれしかないのだから、上手く使うしかないだろう?」

 

見習い軍師「わかりました、私も自分の扱いの修練を積もうと思います!」

 

武将「もし戦場で勝って生き残りたいのであれば、そうするのがいいな」

 

おわり